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謎を二つ

水曜日の色


謎を二つ


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遠く、波打ち際で、女の子とその父親だろうか二人、遊んでいるようだ。

歩いて来た道から、砂浜へ降りられる階段に腰掛けて、私は波音を聞いている。
静かに波が寄せては返す。
ふと思い出したことがある。

幼稚園生の私は、母に連れられて、海辺のある家を訪れている。
和室の客間に通されて、出された丸い羊羹を眺めている。
こんな丸い羊羹は初めて見た。
初めて訪れた知らない家で、私は少し緊張している。

その家は誰の家だったのだろう。
父の勤め先と関係のある家のような気もするが、でも多分、母の親戚の家なのだろうと思う。
もしかしたら、母の母親、私の会ったことのない祖母の里だろうか。

そんな謎を抱えて、また歩き始める。
ウォーキングに来たつもりでいたが、私の歩く速度は遅いので、あまり運動にはなっていないかもしれない。
私の頭はいつしか空っぽになって、ゆっくり歩き続ける。

風を感じる。案外、海風があるな。
住宅街の中の家ではわからなかった、海辺の風が気持ちがいい。
急に、名古屋の団地の5階に住んでいた頃に、父が5階に吹き抜ける風を涼しいと言って、とても喜んでいたことを思い出す。

しばらくして、住宅街の道へ戻り、川沿いを家へと戻って行く。川べりの風も気持ちがいい。
もう一度、5階の風を楽しんでいる父のことが思い浮かぶ。
ふと更に一つの記憶が蘇る。

その団地に住んでいた頃のことだ。
もうすっかり夜になっていたが、父が歯が痛くて病院へ行くと言い出した。
小学校低学年だった私は、父に付き添って出かけた。バスに乗って出かけたんじゃなかったかしら。
小さい病院の2階に診察室があって、私は暗い待合室の角でじっと座って待っていた。

ずっと後になって母が言うのには、あれは産婦人科だったのよと。
夜、たまたま診てくれる病院が産婦人科しかなかったのか。
痛み止めの薬でももらったのだったかしら。が、本当に産婦人科だったのだろうか。
謎がまた一つ。

そして、私は家にたどり着いた。
リビングにじっとしているだけじゃ思い出さなかったかもしれない、謎を二つ抱えて。






by kiyoko_ki | 2017-08-16 14:05 | 水曜日の色